本書は、倒産・企業再生の世界において「修羅場」と呼ばれる局面で何が意思決定を分けるのかを描いている。
英雄譚ではなく、あくまで原理原則の記録として読める点が、この本の強度だ。
税金を使わない、という原則
倒産法の革命家ともいえる弁護士・高木の思考の中核にあるのは、
民間企業の再生に税金を使うべきではないという一点だ。
産業再生機構法を、あくまで時限立法と位置づけ、
役目を終えたら速やかに解散すべきだと主張し、
実際に1年前倒しで解散に至ったというエピソードは象徴的である。
制度を作ることより、制度が「居座らない」ことの方が重要だという視点は、
行政や政策論ではしばしば欠落しがちな感覚だ。
JAL再生と「960万円」という違和感
本書の大きな山場の一つがJAL再生である。
中でも印象に残るのが、
社長・西松の年俸が960万円だったという事実だ。
給与を削ることが再生にどれほど寄与するのか。
その象徴性と実効性の乖離を考えさせられる数字でもある。
コストカットの「見せ場」と、本質的な再建の距離感が浮き彫りになる。
プロとプロの渡り合い
JAL支援パッケージをめぐる、弁護士・瀬戸と政治側の想定を覆す攻防は、本書屈指の読みどころだ。
依頼元である前原の想定を超え、法と現実の両面から最適解を組み立てる。
ここには、理念ではなく技術としてのプロフェッショナリズムがある。
政治を動かす力
当初は消極的だった菅が、途中から明確に味方に回り、「保証がなければ融資できない」とする政投銀を一括し、
受け入れさせたくだりは、まさに剛腕と呼ぶべき展開だ。
原理原則を掲げるだけでは足りない。
それを実行可能な形に落とし込み、相手を動かす力がなければ意味がない。
本書は、その現実を隠さない。
稲盛の覚悟と慧眼
この流れを受けた稲盛の覚悟もまた印象深い。
彼が最初から瀬戸たちのスキームに賛同していたという事実は、
経営者としての直感と判断力の鋭さを物語る。
後追いの英雄視ではなく、
「最初から見抜いていた」ことに価値がある。
司法の裁量という現場
会社更生法の条文解釈において、
裁判官・菅野が見せた裁量も興味深い。
法は絶対的なものではなく、
現実に適用される過程で初めて意味を持つ。
そのことを、極めて具体的に示している。
結びにかえて
『修羅場の王』が一貫して描くのは、
原理原則にのっとって考えることと、
それを実行する力の両立だ。
どちらか一方だけでは、修羅場は越えられない。
再生とは、きれいごとではなく、
しかし場当たり的でもない。
その緊張感こそが、この本の最大の読みどころである。
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