本書が描くのは、一過性のブームではなく、構造的に進む「中国脱出」の現在地である。
数字を追うだけでも、その動きが個人の気分や流行の域を超えていることがわかる。
加速する富裕層流出
2015年から2019年にかけて、中国から流出した富裕層は約5万9,000人。
さらに2023年単年でも、最大1万3,500人が国外に移ったとされる。
2008年から2020年までの間に、
アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5か国へ移動した資産は、
実に18兆円以上にのぼる。
これは「逃避」ではなく、明確な資産と生活の再配置だ。
それでも日本が選ばれる理由
反日の言説が強まる中で、日本が移住先として浮上している点は直感に反する。
だが本書は、その理由を冷静に整理している。
欧米諸国がゴールデンビザを縮小・厳格化する一方で、
日本は比較的長期滞在がしやすい制度を維持している。
結果として、日本は「完全な移住」ではなく、
安全で現実的な退避先として選ばれている。
国内競争と精神的コスト
移動の背景には、制度だけでなく、国内環境の変化もある。
中国国内の競争は極めて苛烈で、
うつ病の検出率が24.6%に達しているという数字は象徴的だ。
成功していても、成功し続けなければならない。
この緊張が常態化した社会から距離を置こうとする動きは、
富裕層に限らず、広い層に共有されつつある。
象徴としての「日本再評価」
不動産王として知られる王石氏が日本に滞在しているという事実も、
中国人起業家の間で日本再注目の空気を強めた一因だという。
これは日本が「夢の国」だからではない。
政治的リスクが相対的に低く、
生活インフラが安定しており、
過度に干渉されない空間が残っているからだ。
結びにかえて
『潤日』が描くのは、
日本礼賛でも、中国批判でもない。
むしろ、選択肢としての日本が、
思いがけず現実味を帯びてきたという事実そのものだ。
世界が不安定になるほど、
「何もしないで暮らせる場所」の価値は高まる。
日本がその一つとして選ばれている現状は、
歓迎すべきかどうか以前に、
まず正確に理解されるべきだろう。
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