『安いニッポン』――価格の安さが覆い隠すもの

本書は、日本経済を語る際にしばしば用いられる「生産性の低さ」という説明に、別の角度から光を当てている。
問題は能力や努力ではなく、「安さ」を選び続けてきた社会構造そのものにある、という視点だ。

目次

価格を下げ続けるという選択

ダイソーに代表される低価格ビジネスは、国内では徹底した安売りを行う一方、海外では価格を引き上げている。
そこまで国内価格に固執する理由が、どこまで合理的なのかは立ち止まって考える必要がある。

リーマンショック以降、輸入原材料の高騰を背景に、内容量を減らして価格を据え置く「ステルス値上げ」が常態化した。
表面的な価格維持は消費者に優しいようでいて、健全な調整とは言いがたい。

建前と本音の分岐点

本来であれば、生産者への還元を考えれば価格は引き上げられるべきだ。
しかし現実には、「生活水準を考えると値上げは困る」という消費者の本音が、企業の意思決定を強く縛っている。

くら寿司社長の「これからも低価格戦略を続ける」という発言に、違和感を覚える読者も少なくないだろう。
それは経営判断というより、社会全体が選び続けてきた空気の反映にも見える。

国際比較が突きつける現実

都内で最も平均所得が高い港区ですら、平均年収は約1217万円にとどまる。
これはサンフランシスコでは低所得層に相当する水準だ。

日本は欧州諸国と比べて、必ずしも生産性が著しく低いわけではない。
それでも賃金が伸びないのは、付加価値を価格に転嫁しない構造が、長年にわたって定着してきたからだ。

成長産業の足元で起きていること

アニメ産業は2019年時点で2兆5000億円を超える市場規模を誇る。
しかし制作会社の売上は、その一割にも満たない。

華やかな数字の裏で、現場の疲弊が進行している。
この歪みを放置すれば、日本が誇る成長産業そのものが、やがて立ち行かなくなる可能性も否定できない。

結びにかえて

『安いニッポン』は、単なる価格論ではない。
安さを選び続けることで、何を失ってきたのかを静かに問い直す一冊だ。

「安いこと」は美徳であり続けてきた。
だがその裏側で蓄積された歪みと向き合わない限り、日本経済の停滞は構造的に続く――本書はそう示唆しているように思える。

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