本書は、日本が「観光立国」を掲げながらも、なぜその実態に到達できていないのかを、制度と現場の両面から検証していく。
派手な成功事例を並べるのではなく、むしろ機能していない仕組みに目を向ける点に、本書の特徴がある。
単年公募が地方創生を分断する
地方創生の名のもとに行われる観光関連の事業公募は、単年で完結するものが多い。
その結果、ようやく事業が軌道に乗り始めた段階で、継続の道を断たれてしまうケースも少なくない。
さらに問題なのは、事業の中身よりも、申請書の書き方や制度理解の巧拙によって採択が左右されやすい点だ。
現場で価値を生み出そうとする担い手ほど、制度疲労に直面していく構図が浮かび上がる。
インバウンドの現実と視点のずれ
インバウンド需要の約7割はアジアからの来訪者であるにもかかわらず、観光施策の多くは「いかに西欧の旅行者を呼び込むか」という視点で設計されている。
本書は、この認識のずれが政策判断に影響を与えてきた可能性を示唆する。
結果として、実際の来訪者層に即したサービス設計や導線づくりが後回しにされてきた。
需要は存在するのに、それを十分に受け止めきれていない現状が淡々と描かれる。
ホテルと旅行業の制度的断絶
宿泊施設が旅行業の資格を持たないことによる制約も、本書で指摘される論点だ。
特に訪日外国人に対する早朝や深夜の送迎、柔軟なおもてなしが制度上難しいため、目に見えない機会損失が積み重なっている。
現場では「できること」が明確であるにもかかわらず、制度がそれを許容しない。
この乖離が、観光の付加価値を押し下げている要因の一つとして示されている。
観光“未”立国という視座
本書が提示するのは、「観光立国を目指していない」という批判ではない。
むしろ、立国を掲げながらも、その前提となる制度設計や現場理解が追いついていないという冷静な評価だ。
日本は観光立国ではなく、まだ観光“未”立国の段階にある。
その現実を直視することが、次の一手を考える出発点になると本書は語っている。
結びにかえて
『観光“未”立国』は、観光を成長産業として語る以前に、足元の制度を問い直す一冊だ。
地方創生、インバウンド、規制改革に関心を持つ読者にとって、現場と政策のあいだに横たわる問題を整理する手がかりになるだろう。
コメント