本書は、マンションを「終の住処」としてではなく、一定期間で入れ替える資産として捉える点に最大の特徴がある。
感情論やライフスタイル論に寄りかからず、使用価値と資産価値を分解して考える姿勢は一貫しており、その割り切りの良さが読みどころと言える。
使用価値と資産価値の切り分け
著者は、マンションの価値を二つに分けて考える。
一つは、住むことで得られる快適さや利便性といった使用価値。
もう一つは、購入後にどれだけ価値を保てるかという資産価値だ。
良いマンションとは、この二つを同時に満たすものであり、どちらか一方に偏ると判断を誤る。
この整理自体は極めてオーソドックスだが、本書はそれを売却タイミングの問題へと踏み込ませる。
なぜ「10年」なのか
10年という期間設定は恣意的に見えるが、著者は制度と市場の両面から理由を積み上げていく。
住宅ローン控除の期限、固定金利の設定、新築減税、フラット35Sの優遇期間など、制度上のインセンティブが10年前後に集中しているという指摘は今も大きくは変わらない。
また、購入検討者が「築10年以内」を好む傾向や、大規模修繕前に売却できる点など、市場心理に基づく説明も説得力がある。
少なくとも、「いつかは売る」という前提に立つなら、10年という区切りが一つの合理的な目安になることは否定しにくい。
設備・共用施設・修繕という現実
本書が現実的なのは、共用施設や設備に対する冷静な視線だ。
購入時には魅力的に見える共用施設が、時間の経過とともに使われなくなり、維持費だけが残るという指摘は、多くのマンションで繰り返されてきた事実でもある。
同様に、大規模修繕を「避ける」という発想も、長期保有を前提としないからこそ成立する。
これはマンション愛好家には受け入れがたい考え方かもしれないが、資産として見れば合理的だ。
今も通用するのか
制度の細部は時代とともに変わる。
住宅ローン控除の内容も、金利環境も、必ずしも本書の刊行当時と同一ではない。
ただし、本書の本質は制度の数字そのものではなく、制度が設計する行動誘因を読み取る姿勢にある。
その意味で、「制度に合わせて住み替える」という考え方自体は、今も十分に通用すると言える。
結びにかえて
『マンションは10年で買い替えなさい』は、不動産を夢や安心の象徴としてではなく、冷静に扱う対象として考察する一冊だ。
住むことに愛着を持つ人ほど反発を覚えるかもしれないが、だからこそ一度は読んでおく価値がある。
マンションを「買うか、借りるか」という二択ではなく、
「いつまで持つか」まで含めて考える視点を与えてくれる点で、本書は今なお示唆に富んでいる。
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