ケインズ――資本主義を救うための急進性

本書は、書かれた年代を考えると驚くほどビビッドなケインズ解説書である。
理論の整理に終始するのではなく、ケインズが何を問題視し、何を守ろうとしたのかが、思想として明確に浮かび上がる。

目次

金利生活者への否定という核心

ケインズが金利生活者を否定した言葉は、現代日本にとっても耳が痛い。
能力や知性とは無関係に、財産や家柄によって社会の指導層が固定化される社会は、いずれ滅びるという認識が、彼の出発点にあった。

重要なのは、ケインズが資本主義の破壊者ではなく、維持者であろうとした点だ。
資本主義を存続させるためにこそ、世襲や不労所得の支配を削ぎ落とそうとした。その姿勢は一貫している。

失業論における決定的な転換

彼以前の経済学が、失業の原因を労働者個人に帰していたことを、ケインズは資本主義以前の理論として退けた。
その前提が成り立つのは、自ら労働時間を調整できる独立小商品生産者の場合に限られる。

工場労働者のように、労働時間も雇用も自分で決められない人々に対して、同じ論理を当てはめること自体が誤りだという指摘は、現在読んでも説得力を失っていない。

投資・貯蓄・乗数の発見

本書では、投資と貯蓄が同じ硬貨の両面であること、そして投資が乗数効果を持つに至った思考の過程が、極めて平易に説明されている。
社会全体の貯蓄量は、利子率だけで決まるのではなく、所得水準と利子率の組み合わせによって決まる

この整理を経て、ケインズの一般理論が完成するまでの流れは、感動的なほどシンプルだ。
難解さで知られる理論を、ここまで直線的に理解させる解説は多くない。

利子論における決定的洞察

利子を「節欲への報酬」と捉える古典派の見方に対し、
ケインズはそれを「流動性を手放すことへの対価」と定義した。

投資家としての実感を踏まえたこの視点は、きわめて鋭い。
さらに、貨幣量が一定であれば、流動性選好の大きさを決めるのが利子率であり、
流動性選好が変わらないなら、貨幣量の増加は利子率を引き下げる——
この整理こそが、彼の理論の画期だった。

ケインズ理論が導く政策的帰結

そこから導かれる結論は、きわめて実践的だ。

  1. 雇用を増やすには、消費性向(あるいは貯蓄性向)を高めること
     → 乗数が大きくなり、所得と雇用が拡大する
  2. 利子率を引き下げ、民間投資を促進すること
  3. それでも不十分な場合には、政府投資によって有効需要を創出すること

今日で言うところの「マイルドなインフレ」を、ケインズが望ましいと評価した理由も明確だ。
それは、実質的に資産家から労働者階級への資産移転をもたらすからであり、彼の思想と完全に整合している。

結びにかえて

ケインズは、調整役ではなく改革者だった。
ただしその改革は、資本主義を壊すためではなく、持続させるためのものだった。

本書は、ケインズを「景気対策の人」に矮小化せず、
不平等と失業に正面から向き合った思想家として描き出す。

現代の経済政策を考えるうえでも、
いまなお参照されるべき一冊だと言えるだろう。

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