出不精の本好きが海外に目を向けるとき、まずは本で前提知識を得ようとするのは割と普通のことなのではないだろうか。
※その後に実際に訪問するか否かという点に違いは出るのだろうが、
ということで、本日は正にそうした人種である私が、新書で以て世界旅行した際の感想をいくつか紹介したい。
サウジアラビア―「イスラーム世界の盟主」の正体
1冊目はこの本。
以前イスラムについて取り上げた記事でも書いたが、私にとって最も「未知」といえるのは中東、その中でも長年最も「分からない」国がサウジアラビアだった。
オイルマネーをふんだんに活用して米国をはじめ欧米諸国の政治にも多大なる影響力を持つ国、という程度の理解しかなかった理由だが、それもそのはず。本書によると、当国は2019年に至るまで、日本含む49カ国に観光ビザを発行しておらず国民レベルでの交流がなかったとのこと。
それでは分かろうはずもなし、と勝手に納得した訳だが、逆にそうなると好奇心が湧いてくるというもの。
そこで、類書もほぼなかったため、本書を手に取った。
正直なところ内容は薄く、値段分の価値があったか、と言われると難しいが、
朧気ながらもサウジアラビアの国情を知るのには役立った。
特に私が勉強になったのは以下の3点。
- サウジアラビアの王制は絶対的なものではなく、政治権威と宗教権威が協力を仰ぎあう相互依存の関係によって成り立っている
- サウジアラビアに住む人の約3割は外国籍保持者であり、労働市場では自国籍保持者との間で深刻な待遇格差が生じている
- 過激主義者を「イスラームに反する者」と糾弾することで、「中庸・寛容なイスラーム」を掲げるイスラームの盟主としての地位を確たるものにしつつある
オイルマネーにものを言わせて、いる点は多分にあるのだろうが、極めて戦略的な国家であることが分かり、
私の認識もアップデートされた。
イラン 「反米宗教国家」の素顔
2冊目はこの本。
正にきな臭い中東情勢の一方当事者であるイラン。
先のサウジアラビアとの対比で言うならば、中東におけるスンナ派の盟主がサウジアラビアであるならば、シーア派の盟主はイランである、ということから、正に中東の鍵を握る国である。
※したがって中東理解のためには決して欠かせない主要プレーヤーだ。
ということで、Amazonでの評価も参考にしつつこの本を手にとって読んでみたが、結論として、イランという国の全体像のみならず、そこに生きる市井の人々の暮らしや想い、時には彼らの癒えない傷に至るまで詳細に描き出しており、非常に良い本だった。
例によって勉強になった(印象的だった)点を3点挙げると、
- (実態としての差別や迫害はあるが)「少数者の信仰を認める(妨げない)」という信仰の自由がファトワにより保障されている
- 大統領は最高指導者の「下」に位置するが、相応の裁量があり、保守派から改革派まで多種多様な人材と彼らによる政治が展開されてきた
- 同性愛は認められないが、医師の診断があれば性別の変更は妨げられない
といったところ。
サウジアラビアもそうだが、中東諸国はいずれも揃って「自由」が徹底的に制限された前近代的な封建社会である、というようなイメージが飽くまで欧米諸国によるプロパガンダをふんだんに含んだ、色眼鏡によるものなのではないか、という反省を促してくれる。
インド残酷物語 世界一たくましい民
3冊めはこの本。
アジアの超大国であるインド。やがて人口規模が世界一になることが見込まれており、また、ある意味で「古い」慣習を基底としつつ、ITのような領域では世界最先端を行く、幾重にも折り重なった価値観が同居する国。
そんなイメージを抱いていたインドは、実態としてはどういう国なのだろう。
そうして手にとって見たのがこの本。
まず結論から言うと、この本は強くオススメしたい。インドに興味があるなら絶対読んだ方が良いし、そうじゃなくても一流のフィールドワークなので、ページを捲る手が止まらなくなる。
ある意味でミクロスコープな本であり、そのためインタビューの対象が筆者の専属ドライバーだったり、お手伝いさんだったりするわけだが、そのおかげで逆にインドという国のイメージがよりはっきりする。
マクロなデータが一国理解の中枢であることは疑いようもないが、深くまで「理解する」ためには、対象に対して徹底的に掘り下げ、時には心を寄せる必要がある。その困難な試みがなされ、また成功している稀有な本が本書だと思ってほしい。
したがって、中身については読んでからのお楽しみ、という話になるし、よりマクロな話については別冊が必要になると思うが、動機によらず、こういう本をこそ読みたいと強く思った次第だ。
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